計数管理やデータベース・マネージメントという経営思想が企業で用いられ、研究されるようになってからずいぶん経過しました。お客様、営業時間、人数、商品、資金、地域などの各種データを収集・分析した上で、業務に着手すべきであるという考え方のことです。
しかし、折角膨大な時間とコストをかけて収集・整理したデータベースを構築しても、そこから有効な情報を分析・抽出し、明日の売上拡大や業務の効率化ができなければ無意味です。ところが、データベースに含まれるデータを読み・解析することは、極めて高度で知的な作業に属します。今までは、数表から有用な情報を読み取るため、ソートして順番に見たり、クロス表や構成比を見たりしてきましたが、やはり見落としは多かったようです。
文書データにしても、大量のドキュメントを速く読み、真意を把握するのは決して容易なことではありません。文章、数値を眺めているだけでは、「この地域ではどんな商品が売れるのか」、また「その地域に顧客がどのように点在し、どのエリアに少ないのか」などの地域性や、具体的な問題点がなかなか見えてきません。その対策として、文字や数値だけでなく、グラフやチャート図のように、ビジュアルな形でデータを整理し、表現することが今まで行われてきました。
最近これに加えて、地図(地域に関する地理データ)を上手に活用するハードやソフト、つまり、「コンピュータに地図を取り込み、その上に人口分布や顧客分布、店舗の所在地、店舗の売上、売場面積などの属性データを乗せて、画面に表示するコンピュータ・マッピングシステム」が登場し、活用されるようになってきました。これがGIS(Geographic
Information System:地理情報システム)です。
GISを利用して地図上で情報をビジュアル化し、地図に重ね合わせることができるようになり、それまで気づかなかった情報や戦略が、おのずと見えてくるようになったわけです。具体的には、営業部門などで、「壁に地図を貼って、虫ピンなどで自社の顧客や競合企業の顧客などを表現した拠点マップ」を目にしたことがあると思いますが、これをコンピュータの画面で、しかもそれぞれの販売数量・金額、シェアなどの情報付きで見ることが可能です。
今日、企業内外に飛び交う情報量は、以前とは比べものにならないほど膨大になっています。
■情報やデータの表現様式(形態、種類)は表、文書、グラフ、地図・絵、映像、音楽など実に多彩です。
■情報を収集・分類・ストックする手段も、通信システム・コンピュータの発達により、テープ、ディスク、CD-ROM、MO、DVDなど次々に新形式が登場しています。またそれらの情報記憶可能量も、キロ(10の3乗、千)、メガ(10の6乗、百万)、ギガ(10の9乗、10億)、テラ(10の12乗、兆)と、次々にステップアップしています。
■情報の収集対象分野が顧客、店舗、人事、工場・設備、財務、物流、仕入・外注先、環境、文化、人種、国際問題、宗教などしだいに奥行きと広がりを見せています。
このように情報の表現形式、情報処理手段、また情報処理対象分野は、多様化し、膨らむ一方であり、必然的にそれを収録するデータベースも年々歳々大型化しています。
ここで重要なことは、これらのデータ・情報にはほとんどの場合、郵便番号、都道府県・市区町村名、電話番号、道路、河川、駅などの何らかの地理(地図、地形)的データが含まれていることです。一説には、驚くべきことに、「全データベースに占める地理情報的データベースの割合は8割に達する」とさえ言われています。
しかし、過去、何故、これほど重要で身近な地理的データが活用されてこなかったのでしようか。それは、地理的データを容易に操作できる安価な地理情報システムがなかったからです。実は、地理データは昔からありましたが、それを使える状態に顕在化させることができなかったのです。GISとは、埋もれた地理的データベースを活用する仕組みだとも言えます。
マーケティングの中で、特に「地域毎にマーケット特性の異なることに着目したマーケティング手法」のことをエリアマーケティングと呼びます。
マーケティング戦争に勝つか負けるかは、その地域の購買力やターゲット人口といった地域情報をいかに迅速に捉えるかにかかっています。言い換えれば、マーケティングで大切なのは、企業の置かれた環境、場所、地域をどう読み、どう理解するかということです。環境、競合等の状況情報を知ってはじめて、効果的な営業活動ができます。マーケティングにエリアという要素はつきものであり、従って地図も不可欠なのだと言えます。具体的には、各種情報を地図上に乗せて「鳥瞰戦略マップ」を作成することが、エリアマーケティングの第1歩です。
■エリアマーケティングでGISが用いられる第1の理由は、省力化と迅速化
例えば、チェーン本部では出店希望者の物件表示が瞬時に特定でき、候補物件の商圏を素早く予想し、その商圏の質を読み取ることが必要です。あるいは、その商圏でズバリいくらの売上が可能か、競合店はどのような影響を受けるかなどの出店にまつわる諸々の情報を確認できる態勢を整える必要があります。
また一方では、地域の状況そのものが日々刻々変化しており、従来のような「地図を広げて手作業でマーキングする」といった手法では、変化の早い現代にはとても間に合いません。例えば、これまでの方法では、「紙の地図を用意し、これに世帯分布やターゲット人口分布、あるいは売上額などを色塗りします。そして自社店舗や競合店を、形や色を変えたシールを貼って表示します。これをベースに商圏範囲を手描きで線引きし設定します。その上で、この範囲のエリア(例えば、市区町村、町丁目、メッシュなど)のデータをリストから抽出して電卓で足し込む。」などという職人的作業を積み上げてきました。しかも1指標ずつの繰り返しです。万一、商圏の線引きを変更した場合は、もう一度初めからやり直しです。従来この種の作業では、膨大な労力と時間を費やしていました。ところが、これをGISで行うと、何分、何秒で完成します。
■GISが歓迎される第2の理由は、住所データからの自動同定(落とし込み)
平成10年2月以降、郵便番号が7桁化されたことです。例えば、私たちCGBS(中央総合ビジネスサービス有限会社)のある埼玉県南埼玉郡宮代町川端1−15−4は、「3450804−1−15−4」というように、すべて数字で表現できるようになります。漢字を用いないで住所を表現できること自体、画期的なことですが、これはまた、地図データベース上で、店舗・営業所・工場などを比較的正確に自動同定(ジオコーディング:地図上で地名の記された地点に、店舗の立地ポイントを自動的にマーキングすること)できるようになることを意味します。実際やってみれば分かることですが、店舗・営業所・工場などを地図上に正確に位置づける(落とし込む)ことは、非常に時間がかかる難事です。多少の正確さは犠牲にしても、住所データを入力するだけで自動同定できるようになることは、地図データベース作成上の朗報と言えます。郵便番号7桁化は、GIS導入を加速させることに大いに役立ちます。
■GIS普及の第3の理由は、データベースを利用したシミュレーション
パソコンの画面上で自在に各種のデータベースにアクセスし、シミュレーションできることです。鳥瞰戦略マップは、作成すること自体は目的ではなく、ある計画を立て、実行するための検討材料にすぎません。従って1枚の鳥瞰戦略マップですべてが解決できるものではなく、都合によっては何回も何回もシミュレーションしなければならないことが多々あります。また、この鳥瞰戦略マップを作成するプロセスにこそ、地域の特性を把握するノウハウがあります。「ああでもない、こうでもない」と検討することは、各種の計画を成功させるための絶対条件だとも言えます。だからこそ鳥瞰戦略マップ作成は、失敗を繰り返しながら作成すべきなのです。この試行錯誤は、手作業では不可能と言わざるを得ません。つまり、GISは、シミュレーション・ツールとしても非常に効果的です。ある特定のポイントを中心に自由に半径を設定し、そのエリアの情報をリアルタイムで計算し、目標の売上高を設定しておいて、各地域の統計データからどこに営業拠点を設置すれば効果的かを知る、といった使い方も可能です。
GISは、住宅地図や地形図などの詳細な地図データを基本に、地番や居住者名、電話番号、下水道網などの目的別のデータを組み合わせ、必要に応じて地図から情報を呼び出したり、地図を加工したりして利用するものです。つまり、基本的には面情報・線情報、ポイント(点)情報及びインナーデータ(属性データ)オーバーレイ(重ね合わせる)させて使用します。データは、ポイント、用途別に色分けされたリージョン(領域)、円グラフや棒グラフなどで表示されます。
また、GISでは、地域の細かなデータを取り込み、その分析結果を色調や階調を変えて市区町村単位、500m、1km、5kmメッシュなどの面で表示したり、複数情報をオーバーレイ機能によって、重ね合わせて比較することができます。これにより、データベースの膨大な情報から各地域や営業所の傾向や関連性を素早く、しかも簡単に把握することができます。
一方、元来、地図を利用する業務は多いため、以上のような機能をもつGISの活用範囲も多岐に渡っています。例えば、自治体において、効率的な施設管理や高齢者ホットラインサービスなどのコンピュータシステムの整備が進んでおり、既に「下水道管理」、「森林管理」、「都市計画支援」、「固定資産税管理」などのシステムが多数導入されています。
GISは、大きく2つに分類できます。1つは地図を作成するシステムで、もう1つはアメダスやナビゲーションシステムなどの地図を利用するシステムです。特に後者は、都市・道路計画支援、防災、物流など、ここ数年ほどでその利用範囲が急激に拡大しています。
■都市計画支援システムでは、区画を用途別に色分けでき、利用状況が一目で分かります。また、「ある道路を拡幅すれば、周辺の住宅や商店がどれだけなくなり、どの程度の用地買収が必要になるか」などを判別でき、都市計画を作成する際の資料作りに役立っています。
■固定資産税管理システムでは、地図上で土地や家屋の間口や奥行きを測定でき、自動的に面積や評価額の計算ができます。地図上の対象物を指定すると、土地台帳や家屋台帳などの情報も表示できます。机に地図を広げて、関連資料を見ながら作業する場合に比べ、自治体の業務を大幅に効率化できます。
市場の多様化、細分化が進むにつれて、よりきめ細かで緻密なマーケティング戦略が求められている現在、GISは各種情報を分かりやすく提供してくれる有効な道具になります。
また、GISを導入することで、意思決定者である経営陣をはじめ、販売企画、宣伝広告、営業など各担当セクション全てのスタッフに共通した認識、理解が生まれます。共通の認識、理解の下に進められる仕事こそ、成功に直結する早道です。
しかし、GISを使いこなすには、2つの留意点があります。
■第1は、鳥の目と虫の目を区別すること
例えば、見知らぬ土地で雰囲気のよい喫茶店を探したいとします。どうやって探しますか。実は、市街地が大きければ大きいほど、広い範囲を見渡すことのできる高い所(もしくは、その疑似空間が表現されている地図上)から探すことです。地面をただ歩き回っていても、よほどの幸運に見舞われないかぎり、心の休まるよい喫茶店を見つけることは不可能でしよう。そこで、先ず空の上から見渡して、喫茶店の目星をつけることになります。
次に、その喫茶店はどのくらいの値段でコーヒーを飲ませてくれるのか、水はおいしいのか、あるいは店の内装や景色はどうなっているのかを知りたいと思ったとします。しかし残念ながら、これらは空の上からでは分かりません。現地に降り立って調べる以外に方法はありません。
つまり、ある事柄を知るには、それなりの手段と方法があるわけです。この例で言えば、喫茶店探しには、「鳥の目」が必要だし、コーヒーの値段を確かめるには「虫の目」が必要ということになります。
エリアマーケティングを展開する際にも、まったく同じスタンスが必要です。広い範囲を一望にしなければ分からない作業と、現地で細かく、じっくり見て調べなければならない作業とがあり、この2つをうまく使い分けないと目的を果たすことができません。GISだけで、すべてのことはできないということです。
■第2には意志決定はあくまで人であること
GISが、いかにビジュアルに分かりやすく地図上に表示してくれるとはいえ、意思決定するのはあくまで「人」であり「GIS」ではないということです。GISというマッピングシステムは、意思決定者に分かりやすく「判断材料」を提供しているにすぎません。各種データに裏打ちされたビジュアルマップ(鳥瞰戦略マップ)を見た上で、これまでの勘や経験をもって人が意思決定するということです。システムはあくまで道具にすぎないということを、常に念頭に置くべきです。
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