目次

読者の皆様へ
<上巻>
まえがき ―仁(イン)と信(シン)、二人の子に―
第一章 私の家柄と幼い頃
第二章 数奇な運命の若き日々
第三章 放浪の路
第四章 民族に捧げた身
<下巻>
まえがき
第一章 三・一運動の上海
第二章 奇跡、長江万里の風
第三章 私の望み
    民族国家
    政治理念
    私が望む我らの国
年譜
100年の時を越えて-亡き父に代って(柳 利須)
わたしの『白凡逸志』(上野 都)

訳者の一言

日本人の立場からだと、白凡·金九先生はただ単にテロリストの指揮者としてみられるかもしれない。そうだとして、日本人が犯した悪行に対し当時の植民政策に携わった重要人物を狙ったことを正しかったと主張するわけでもない。
ただ私はそれより、一朝にして自分の国と言葉を失った民族がどのような人生を貫いてきたのか、そして、他国によって思いも寄らなかった苦しみを受けることになった民族がその現実をどうやって受け止め、どのように耐え忍んできたのか、その歴史的な事実を現代の日本人と共有し、正しく理解してもらいたいのである。
それを通して、今を生きる日韓両国の人たちが自国の歴史における混鈍の時代について理解し合い、お互いの国を尊重し、話し合えるきっかけにしてほしいと願っている。そうしてこそ、日韓の真の友情が芽生え、両国が共に人類愛を実践していけるようになると信じているからである。
この本の実翻訳者である父(柳義錫(リュウイソク))は、独立運動のせいで追われる身になった祖父の渡日のため、日本の山村、木曾福島で少年時代を過ごすことになった。父はその記憶をたどり、一生故郷の友だちと国境を越えた大事な友情を保って来た。それに日本文学作品を手から離さないほど日本文学が好きだった父が、人生の黄昏の時に『白凡逸志』の翻訳を決心することになるまで、どれほど自分自身と冷静に向かい合い、多くの自問自答を繰り返したであろう。金九先生が国を取り戻そうと敵にしたのは、父の故郷の日本人友だちではない。故郷の友だちも同じく戦争の被害者であると言える。金九先生が敵にしたのは、その友だちまで戦争のため竹の槍を取らせて訓練させ、敗戦後には貧しい生活に追い出した帝国主義者だったのである。
その故、父はこの本が日本の人々に韓国の歴史と韓国人の真心を理解してもらえるのに役立つだろうと判断したに違いない。
独立運動家の子孫でありながら日本への愛情も深かった父が、真の日韓の友好の手がかりとして辿り着いたのが『白凡逸志』の日本語訳である。